建築設備調査隊! 第13号 2001.11.15より
◆◆◆業界紙への執筆依頼から
リニューアル、リフォーム関連の出版社に(株)テツアドー出版というのがあり、今年6月にビッグサイトで展示会を行いましたが、当社もカタログ出展並びにセミナー講師として劣化診断調査報告書の書き方をはじめお付き合いさせてもらっています。今回はまたまた原稿執筆の依頼があり、以下のような原稿が掲載されたようです。予定では11月初旬発行紙に掲載とのことです。そこでは写真付きですので、この際購読あるいは定期購読をお勧めします。
http://www.refo.co.jp/

===排水管設備の劣化調査診断===
はじめに 集合住宅の設備劣化診断では、給水管と排水管が主たる調査項目である。排水管では手洗い、流し、台所、浴室からの排水を雑排水系統とし、一方、便所の小便器、大便器につながる排水を汚水排水と分けており、雑排水管を白ガス管、汚水排水を鋳鉄管で施工してある建物が多い。近頃は硬質塩ビ管や各種コーティング管が使われ、腐食や錆瘤、詰まりに対してはその対策が進められてきた。 ここでは調査の経験を元に、いくつかの事例と共に排水管の問題、調査診断方法とそれらの特徴について述べてみたい。

1. 調査の背景
 調査,診断依頼の事情は大きく分けて2種類ある。建物竣工後20年、30年が過ぎ、給排水管を含む長期建物更新計画作成の基礎データとしての調査依頼と、排水管からの漏水事故が起きた、あるいは最近頻繁に起こるといった問題のためという対処型依頼である。早くて十年を過ぎた頃から漏水の問題は始まり、三十年も経つと数カ所の漏水事故履歴を抱えて排水管の更新をするか、再生(更正)かと検討するビルを多く見かける。漏水事故の場合は、問題箇所が外部に現れる点で調査者にとってはポイントがより絞られるが、そうでなくとも調査の可能な箇所は排水管全体のごく一部に限られ、排水管系統が数百メートルから数千メートルある場合、診断もその一部から判断するしかない。調査した箇所の劣化程度がたまたま軽微であれば、診断に基づく対策は時期が遅れ、その間頻繁な漏水事故に悩まされることとなる。

2. 調査方法
 配管の一般的な調査方法としては弊社ホームページで解説しているように、
http://www.yoonnet.com/

イ. 内視鏡調査、ロ.超音波肉厚測定、ハ.X線調査、ニ.抜管調査などがあるが、これらは調査目的や得られる結果が異なるため、排水管特有の問題に絞った調査としては以下の2点を強調したい。
排水管の問題は、管の劣化と機能の劣化である。管の劣化では、配管の腐食、減肉による穴あきがひき起こす漏水や継手からの漏水があり、機能の劣化では、本来排水をスムースに流す機能が、錆瘤の発生、汚物の付着、その後の堆積、成長によって流れが阻害され、排水不良による滞留、逆流、異臭・異音の発生が症状となって現れてくる。この問題を調査するため管の詰まり、腐食を調査するが、よく使われる方法の長短を以下に述べる。

 イ. 内視鏡調査は、排水管調査によく使われる方法であるが、挿入した配管内に異物や水垢、ヘドロ状物質などが著しく堆積していると先端のカメラ部はすぐに汚れ、前に進まない状態となる。また異物は錆瘤なのか単なる汚れの固まりなのか、給水管の場合と違って判別するのは難しい。しかしながらそうした状態にあること自体がすでに問題であって、その観察には意義があるが、観察のみで管の更新をすべきか、洗浄ですむのか判断は困難である。

 最近は内視鏡の機能を持った強力な調査機器があり、内視鏡ではどうしても3メートルから6メートルがせいぜいの観察距離であったのが25メートルから30メートルと飛躍的に伸び、7階建ての排水管は屋上から1階まで縦管を一度の操作で十分観察することができるようになった。パイプカメラと呼ばれ、ちょうど卵の先端に管内を照らす照明と、中心部にカメラがあり、硬質の長いケーブルが巻き取られたドラムから出てくるものである。ここにはテレビモニターやビデオを接続して録画することも可能である。注意すべき点は管の曲がりは3直角までと考えた方が良く、管内径も100A位までの調査に適する。

 ロ.超音波肉厚測定は、鋳鉄管が使用されている汚水排水管では一般的ではない。鋳鉄管はほとんど減肉しないといわれ、また管表面がざらざらしていることから測定は困難な場合が多い。逆に雑排水管では白ガス管が使用され、腐食劣化は管厚の減肉に現れるため、肉厚測定は有意義である。コーティング管やライニング管、塩ビ管では肉厚測定の意味がない。

 ハ.X線調査は錆瘤発生、汚物堆積、減肉が同時に分かる方法であるが、減肉を定量的に測るのは難しく、鮮明な画像を得ることも容易でないため。その調査方法にも制限がある。

 ニ.抜管調査は実物を肉眼で確認できる唯一の方法であり、錆瘤、汚物堆積、の様子を観察でき、抜管した管を縦割り酸洗いすることにより腐食、減肉の様子が見られることから、可能な限りこの方法を調査項目に加え提案している。ただし、抜管には工事や断水が必要で、費用や手間もかかることから制約が多い。ただこうした調査方法もさることながら、皆さんにも協力できる簡単な方法は、漏水事故や配管補修工事の履歴を記録し、撤去した管の写真を撮っておくことで、漏水の頻度や管の状態から経年劣化の進行度が把握でき、調査診断の正確度向上や調査費用低減には効果がある。

 一方、調査の経験からすると、白ガス管を使用している雑排水系統では、縦管よりも横引き管といわれる建物床下、あるいは天井裏に水平に施工された枝管での劣化が著しく、また漏水事故もそのあたりに頻繁に見られる。これは一度、異物あるいは錆瘤など、突起物が水平管上に発生すれば流れが阻害され、そこに溜まった排水、異物がさらに腐食や詰まりを悪化させるからと思われる。肉厚測定は可能であり、一般的ではあるが、実はこうした管の劣化や漏水は直管部より継手、曲がり、ネジ部に多く発生することから、直管部の肉厚測定のみで診断を下すのは危険である。

 汚水排水は総じて鋳鉄管やコーティング管が使われており、腐食の問題はあまり顕在化しないが、建物によっては管理がずさんで、通常、年1度の排水管洗浄がほとんど行われていないと、排水不良、詰まり、逆流(上階で流した汚水が下の階で溢れる)などの事故をおこす。たまにあるのは、内視鏡が挿入できないほど、管内はヘドロ状の異物が堆積し、調査不能というより調査を続行する意味がないほど、入口で管の惨状が判明したということである。予防措置及び日常的な保守管理としては雑排水管、汚水排水管とも年に1度の高圧水による洗浄を行い、その度に場所を変えて内視鏡観察を行うことである。

 洗浄業者によってはそうした調査を業務の一環として行っている。漏水履歴と共に有効な調査方法は内装工事を行う区分所有者がいれば、その機会を活かし、協力を得て天井裏や床下など、普段見ることができない部分の調査を定期不定期に行うことである。それらが5年に一度あるいは3年に一度程度の間隔であったとしても20年から30年の間、何もしないよりずっと望ましく、劣化程度の変遷、漏水の頻度と併せ素人でもおおよその劣化程度がつかめる点に価値があると思われる。

 さて当社を含め診断業者に依頼するにはどうしたらいいか、何が必要かという点について述べてみたい。電話での問い合わせから始まることが圧倒的に多いが、時には要領を得ない問い合わせであったり、診断項目や内容に自分たちなりの決定をしてからその実施を依頼されることもある。施工会社や管理会社であれば、先方の担当者も設備についてある程度の知識があるが、そうかといって調査計画箇所や内容が診断の目的に必ずしも合っていない場合が多い。

 上に述べたように調査方法と得られる結果は違うため、改修、更新の判定の為なのか排水不良の原因究明なのか、管種によっても鋳鉄管なのか白ガス管かで適切な方法を選ぶ必要がある。もっともそうした点まで一般の方に分かるはずはなく、そのため、電話では建物の規模、階数、住居戸数、棟数によりかなりの状況が推測できる。もちろん竣工図面などを片手に話してもらえればよりいっそう正確ではあるが、いずれにせよ本調査の前に見積作成、調査手順、要領を打ち合わせするため下見をする。ここまでは依頼者側に費用はかからず、見積金額をはじめ、調査診断の方法、内容が分かってから依頼するのが一般的である。肝心の調査費用であるが、これは千差万別である。

 半日から1日をかけて外観調査を主に行うのであればそうたいした金額ではないが、抜管調査、X線撮影、内視鏡とあらゆる方法で何カ所も行う場合、それなりの費用がかかるが、調査箇所、方法が増えるほど診断は正確になっていく。しかしポイントを押さえた適正箇所数というものはあり、よって一概に調査箇所数が多いものが正確であるとは限らない。

 50戸のマンションと200戸のマンションでは後者が4倍の調査箇所数で費用も4倍ということはない。規模が大きくなるに従い、1戸あたりの負担は少なくなるのが一般的で、ましてや集合住宅各戸の家計レベルで考えれば、排水管の工事費用と違って調査費用であるから、1戸当たり1万円前後がその限度ではなかろうかと思われる。

 依頼を受けた後、診断業者は準備に取りかかるが、断水などを伴う作業の場合、居住者へのお知らせなど最低1週間は見ておくべきで、一般の住宅であれば週末や祝日は在宅の場合が多く、家事、洗濯、食事と、何かと水を使用するため排水ができないのはかなり不便である。逆に都内の繁華街、オフィス街にあるマンションでは、居住者より事務所として使用していることが多く、断水や立入を伴う作業は土、日に行って欲しいという依頼がある。もう一つ調査のネックとなるのが鍵の管理である。専有区画に立ち入る必要がある調査であれば、鍵を預かってもらうか、その区画が在宅であることが絶対の条件であり、日程をそのため変更したり再度調査となると宅配の再配達と違ってコストアップと他の居住者方へ大きな負担を強いることになりかねない。

論文掲載集 [1] [2] [3]